魔法使いオズの住むエメラルドの都

少女ドロシーが、犬のトトと一緒に黄色いレンガの道を辿って向かうのは、ミステリアスで偉大な魔法使いオズが住むという「エメラルドの都(エメラルド・シティー)」
ジュディー・ガーランドが歌う「虹の彼方に」を口ずさみ、映画『オズの魔法使い』のことをひとたび思えば、私の心はいつだってときめいてしまう。
言わずもがな、フランク・ボームの原作も貪るように読んだ子ども時代であったが、そこでなによりも私が魅了されるのは「エメラルドの都」。
勿論、本物の宝石エメラルドなど見たことなど一度もなかったし、近所のスーパーマーケットがよりによってオズという破壊的な名前だったのであるが、それでも、いやだからこそ、ますますオズの魔法使いが住む「エメラルドの都」は私にとって夢の都になった。

ところで、その「エメラルドの都」のモデルというのが1893年シカゴ万国博覧会にあるらしいと、先日私は知った。この博覧会、実は世界ではじめて大々的に電気が使われたことでも有名で、会場は200,000個以上の電球が電気の力で光り輝いていたという。まだ時は19世紀のことである。しかし、そこには驚くべきことに、自動改札機や、電化キッチンが展示されていたとか。その博覧会を原作者のボームも訪れている(思えばオズの魔法使いも、実は機械(電気)を操る男ではなかったか!)。そして、その博覧会会場の真っ白な大理石風漆喰の建物が並ぶ街並は、「エメラルドの都」ならぬ、「ホワイト・シティー」と称されていたという。

Somewhere over the rainbow虹の向こう
Skies are blue そこは いつも青空
And the dreams that you dare to dream
Really do come trueそこでは どんな夢もかなう

その後「ホワイト・シティー」は火事で焼け落ちたが、「オズの魔法使い」は1900年に出版され、それから115年。今を生きる私たちが暮らすこの日本にも電線はくまなく張り巡らされ電気は流れ、自動改札機もオール電化キッチンも、かつての夢を遥かに凌ぐ形で現実になっている。

先日、家の片付けをしていた母が、かつて父から貰ったエメラルドだとその婚約指輪を見せてくれた。そうして私は人生ではじめてようやく本物のエメラルドという宝石を間近に拝むことになった。
私はその緑色に輝く宝石をこっそり自分の指につけてみる。

“there’s no place like home!” “やっぱり おうちが一番”
映画の中のドロシーは最後にそう言って、カンザスのお家へ無事に戻ることになるのであるが、私は、本物のエメラルドの中を覗きこみながら、今うっとりと、虹の彼方に都を探そうとしている。


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