クリスマスのガーネット

クリスマスが近づいて街がネオンライトで煌きはじめると、私はひとりガーネットを想ってそわそわしはじめてしまう。しかも、私が心を寄せるそれは、よく見かける紅玉色のガーネットならぬ、青いガーネットだ。そして、クリスマスのディナーにはガチョウの丸焼きこそがふさわしいと考えている。

この季節が巡りくるたび私が夢中になるのは、ご存知英国はコナン・ドイルの名作、名探偵シャーロック・ホームズ・シリーズ「青いガーネット」の物語である。ある男がクリスマスの朝、ガチョウと帽子を拾う。そのガチョウを料理しようとしたところ、その胃袋から巨大な宝石、青いガーネットが出てくる。しかも、その青いガーネットにかけられていたのはなんと賞金1000ポンド!という素晴らしきミステリーである。
この物語をはじめて読んだ私はまだ幼かったため、ガーネットというのは青いものだとばかり信じて疑わなかったが、しかしどうやら、現実のこの世の中に存在するのはいわゆる石榴石(ざくろいし)と呼ばれる紅色で、他にも色は数あれど青いガーネット、などという宝石は完全に架空のものだとか。

数年前、私以上にホームズ狂な母と共にロンドンを訪ねたのだが、かの物語に登場するガチョウ市場の舞台となったコヴェント・ガーデンのマーケットへも足を運んだ。19世紀は生鮮食料の市場だったこの場所も、今ではすっかり整備されて小綺麗な土産物屋やなにやらが並んでいる。もしもそこに丸々太ったガチョウが売られていて、もしもその日がクリスマスだったら、私は間違いなくガチョウを一羽購入して胃袋を弄るところだったが、あいにくガチョウは見当たらなかったため、近くのレストランへ入って、ガチョウのかわりに鳥のグリルを食べた。21世紀のロンドンで、私はフォークとナイフを手に、ついついその肉に煌めく何かが混ざっていやしないかと詮索したが、残念ながら何も見当たらなかった。

というわけで、今年ももうすぐクリスマスがやってくる。オーブンで丸々太ったガチョウを焼いて、ホームズを気取ったメールの一通でも送りたい。
「ツゴウガヨケレバスグコイ。ワルクテモスグコイ。」

そうして迎えるクリスマスの朝、幻の青いガーネットは、私自身の胃袋の中で光輝くことになるだろう。


Don't Miss