エモーショナルなジュエリー Vol.9 「ソランジュ・アザグリー・パートリッジ」

「Hot Lips」All Hotlips are solid silver with coloured lacquer.
「Supernature Ring」Multicoloured enamel, 18ct yellow gold

鮮やかな色と遊び心溢れるディテールで、一目でハッピーな気分にさせてくれる。今回はそんなジュエリー を生み出すイギリスのジュエリーデザイナー 、ソランジュ・アザグリー・パートリッジをご紹介したい。現在ではロンドンのVictoria & Albert Museumや、パリのmusée des Arts Décoratifsでも展示されており、世界中でカルト的な人気を博すソランジュのジュエリーだが、元々はジュエリーデザイナー になるつもりは無かったそうだ。彼女が初めてジュエリーをデザインしたのは1987年に遡る。

「初めてデザインしたのは私の婚約指輪だったの。その当時私はアートやジュエリーを取り扱うギャラリーで勤務していたのだけれど、自分の好みに合う指輪を見つける事が出来なかったから、自分で作る事にしたの。その指輪を気に入ってくれた人達から注文を受けるようになったりして、ジュエリーのビジネスを立ち上げたのは1990年の事だったわ。」

left:「Random Necklace」Diamonds, Multi-coloured gemstones, blackened 18ct white gold
right top:「Shooting Star Tiara」Diamonds, blackened 18ct white gold
bottom middle:「Ballcrusher Ring」Tahitian pearl, red lacquer, 18ct red gold / 「Chromantic Ring」Black opal, multi-coloured gemstones, blackened 18ct white gold
bottom right:「Fringe All Diamonds Ring」Diamonds, blackened 18ct white gold

 その後、1995年には初めてのブティックをオープンさせた。まるでポップアートのようで斬新なソランジュのジュエリーはすぐさま注目を集め、新進気鋭のジュエラーとして名を馳せるようになった。2001年にはBoucheronからのオファーを受けて、三年間クリエイティブ・ディレクターを努めた。Boucheronの最もアイコニックなジュエリーと言えばQuatre Ringだが、その生み親がソランジュである事は、日本ではあまり知られていないだろう。Quatre Ringが生まれた背景についてソランジュに聞いてみた。

「一番初めにデザインしたQuatre Ringは、四種類のバンドを合わせた幅が広いヴァージョンのものだったわ。Boucheronの歴史の中で繰り返し使用されていたゴールドモチーフを繋ぎ合わせて作ったの。そこから色んなヴァージョンが生まれていったわ。Quatre Ringは、私自身のブランドで作っていたMish Mash Ringを元にしたデザインなのよ。」

left:「Mish Mash Ring」Diamonds, rubies, 18ct white gold
middle:「Orange and Pink Ring」Fire opal, Sapphire, ceramic, lacquer, 18ct yellow gold
right :「Stoned Necklace」Multi-coloured gemstones, enamel, 18ct yellow gold

 「Mish Mash Ring」は、それぞれ異なる装飾を施した4本のバンドリングを一つにまとめたデザインだが、「Orange and Pink Ring」や「Stoned Necklace」などにも見られるように、通常であれば合わせないであろう色味や形状といった様々な要素を共存させるのは、ソランジュの持ち味の一つだと言える。独特なテイストを持つ彼女にとって、魅力的なジュエリーの定義とは何だろうか?

「美しいジュエリーというのは、見た目が良いだけではダメなのよ。それを身に付ける人の感情と繋がって意味を生み出さなければならない。素材や色を組み合わせる事によって、そこにストーリー性を生み出す事が大切ね。特に、色というのは直感的に人々に訴えかけるものだと思っています。誰にでもお気に入りの色というのがあって、それは恐らくその色がその人にとって、深いレベルでの喜びや幸福感を与えるからでしょう。美と喜びは、人生をより豊かにする要素です。ジュエリーはラグジュアリーで高価なものだからこそ、美と喜びを兼ね備えているべきだと思っています。」

「Hot Lips」All Hotlips are solid silver with coloured lacquer

 ソランジュの作品の中でも最も知名度が高いのは、Hot Lipsと呼ばれる指輪のコレクションで、様々な色、テクスチャ 、柄が存在する。唇を模したリングは色んなブランドから販売されているものの、ソランジュのHot Lipsほど人気を博し続けているデザインは後にも先にも無いだろう。アイコニックなこのリングはどのようにして生まれたのだろうか。

「まだEメールが存在するよりも前の時代の話だけれど、手紙を書く時、私はいつも赤い口紅でキスマークを付けていたの。その内に、大好きな赤色を塗った唇型のリングを作ろうと思い付いたのよ。そこから色や柄のバリエーションが年々増えていったわ。一種類だけでは満足しなくて、何種類も購入して下さる人も多いのよ。」

 ジュエリーデザインのバックグラウンドが無いにも関わらず、独特のクリエーションで人々を魅了するソランジュ。ユニークな世界観によって生み出される美と喜びから、今後も目が離せない。


画像/資料提供

SOLANGE AZAGURY-PARTRIDGE | http://solange.co.uk



Mika Murai

村井 美香 Mika Murai

1986年生まれ。大阪府出身。15歳の時に単身渡英。ケント州の高校をオールAの成績で修了した後、ロンドンの名門美術大学Central Saint Martins College of Art and Designに進学。その後、Kingston大学大学院に進み、首席で卒業。英国王室御用達のジュエリーブランドなど、様々な有名ブランドでデザイナーとして経験を積む。帰国後は国内の某ラグジュアリージュエリーブランドで勤めた後に独立。ジュエリーデザイナー 、コラムニストとして活動中。mika jewellery(https://mikajewellery.net)を2019年に立ち上げた。

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