イスタンブールの魅力を封じ込めたジュエリー
東西文化の架け橋として古くから栄えたトルコのイスタンブールは、長らく世界の中心として栄華を極めた。美しいモニュメントや建築物が随所にあり、神秘的で華やかな活気に満ちている。今回紹介するセヴァン・ビカッチは、イスタンブールのスピリットを感じさせる作風のジュエリーで知られており、「現代に生きる最も偉大なジュエラーの一人」との呼び声も高い。
セヴァンは父親の意向により、たった12歳の時にグランドバザールに店を構えるジュエリー職人の見習いとなった。6年後に師匠が他界してしまった為、セヴァンは独立してワークショップを立ち上げた。しかし29歳の時に破産に追い込まれたセヴァンは、下請けのジュエリーを制作する仕事に飽き飽きしていた事もあり、自らジュエリーをデザインする事を決意した。一年掛けて制作した初コレクションのテーマは、彼が毎日を過ごしているグランドバザールだった。このようにセヴァンのジュエリーは、彼が住むイスタンブールの街からインスパイヤされたものが多い。
建造物をモチーフにした作品が多数存在する中でも、地元民の生活に溶け込んでいるモスクは、何度も繰り返しモチーフとして使用されている。まるでスノードームのように風景が石の中に封じ込められているこれらの作品は、インタクリオ(沈み彫り)と彩色によって表現されている。同技法によって作られたMessenger Ring (冒頭画像)の鳩はイスタンブールの風景から切り離す事が出来ない存在であり、日常生活を芸術作品に昇華するセヴァンの美的感覚が伺える。
幾重にも重なった文化と歴史を、技法のレイヤリングで表現
イスタンブールは海に囲まれているため、波止場の風景を切り取った作品も多い。Marmara Blue Ringのブルートパーズの中にはカモメが飛び交っているが、カモメが何層にも重なっているこの技法はセヴァンが独自に編み出したもので、その詳細は非公開とされている。泳いでいる魚達を水面から眺めているかのようなBlue Sailor Ringでは指輪の側面にモザイク技法を用いてボートの絵が描かれており、ここにもイスタンブールらしさを見て取れる。
Heaven’s Guardians Ringにはローズカットダイヤが多数配置されているが、これらのダイヤにはフォイルバック加工が施されている。元々はヴィクトリア時代に多用された加工技術だが、アンティークっぽい雰囲気とダイヤの輝きを引き立てる目的でセヴァンが好む技法の一つだ。
セヴァンは一つの作品の中にも複数の技法を重ねることを好むが、レイヤーを重ねていくこのスタイルはイスタンブールという街から学んだものだという。一歩踏み出す毎に、この土地で重ねられた豊かな歴史と文化を感じられるからだ。イスタンブールに住んでいれば、インスピレーションを求めて遠くの地まで行く必要が無いという。セヴァンが表現する、見果てぬイスタンブールのロマンに、今後も私達は魅了されるのだろう。
画像/資料提供
Sevan Bicakci | https://www.sevanbicakci.com