エモーショナルなジュエリー Vol.4 「ショーン・リーン」

Coiled Collar(1997年) | 真鍮

 

主張ある美しさとエレガンスを体現する、イギリスを代表するジュエラー

イギリスらしいファッションを思い浮かべる時、筆者の脳裏にはエキセントリックながらも気品あるデザインが浮かぶ。今回紹介するショーン・リーンも、筆者が思うイギリスらしさを体現し続けているジュエラーだ。ショーンの作品は、時代に対する挑戦的なステートメントを掲げながらも、どこかにエレガンスを漂わせる。ショーンはこれまでに4度もUK Jewellery Designer of the Year Awardを受賞しており、イギリスを代表するジュエラーと呼んで差し支えない。新しく英国ロイヤルファミリーの一員となったメーガン・マークルも、ショーンのジュエリーの愛用者として知られている。

ロンドンにはハットンガーデンと呼ばれる宝飾店街がある。東京で言うところの御徒町のような場所だ。様々なジュエラーがハットンガーデンに工房を構えている他、ジュエリーのパーツやルースの石などを販売する店が多数並んでいる。15歳の時に、ショーンはハットンガーデンで宝飾職人の見習いとなった。伝統的な技術を次々と会得していき、18歳の頃には一流ジュエラーのティアラ制作などを任されるほどの腕前になっていた。

ショーンが一躍有名になったのは、アレキサンダー・マックイーンとのコラボレーションによるところが大きい。ショーンが当時まだセントマーチンズの学生であったマックイーンと知り合ったのは、1992年の事だった。彼らは友人として交流を深め、ある日ショーンの職場を訪れたマックイーンは、ショーンのジュエラーとしてのスキルに感銘を受けて、自身のショーを手伝って欲しいと依頼するに至った。二人の長年に渡るコラボレーションはここから始まり、それまでゴールドやダイヤモンドといったクラシカルなジュエリーを扱っていたショーンにとっては、素材や形状の制約が無い自由な表現世界への幕開けとなった。

 

ジュエリーの既成概念を取り払ったクリエーション

Left : Coiled Corset(1999年) | アルミニウム / Right : Moon Headdress(2007年) | ムーンストーン、スワロフスキークリスタル、シルバー

二人のコラボレーションにおいて、当初は小さく装飾的だったショーンのジュエリーは、次第に大きくオーナメント的なものへと変貌を遂げていった。例えば1999年の「The Overlook」コレクションで制作されたアルミコイルのコルセットや、2007年の「In Memory of Elizabeth Howe」コレクションで制作されたヘッドピースなど、ショーンの作品は一般的なジュエリーの枠を超えてマックイーンのショーに欠かせない存在になっていった。

冒頭画像はビョークが1997年に発表したアルバム、「Homogenic」のジャケット写真だが、このアイコニックな写真を彩るコイル状のネックレスも、ショーンが手掛けたオーダーメイド作品だ。先述のアルミコイルコルセットは、このネックレスの形状を元にマックイーンが提案した事から生まれた。92本のアルミコイルで構成されるこのコルセットの制作には膨大な時間が費やされ、二人のコラボレーションにおける代表的作品の一つとして知られている。

Left : Tusk Mouthpiece(2000年) | シルバー / Right : Silver and Tahitian Pearl Neckpiece(2001年) | シルバー、タヒチ真珠

マックイーンのショーにおいてショーンが制作した作品の中には、ショッキングで時に物議を醸したものもある。2000年の「Eshu」コレクションのマウスピースや、2001年の「Voss」コレクションのネックレスなどがその顕著な例だが、これらのジュエリーは装着者の体の一部を固定したり、動きを制約したりする働きを持つ。女性が囚われているかのような印象を与えるこれらのジュエリーは不穏なバイオレンスを想起させるものであり、眉をひそめる者がいてもおかしくない。しかし表現力というベクトルで捉えた時に、これほどにパワフルな作品を生み出せたのは、柔軟な発想の賜物だと言わざるを得ない。二人のコラボレーションは、マックイーンが他界した2010年まで、17年間に渡り続いた。

 

ファッションとハイジュエリーの世界を自由に行き交う存在

Left : Queen of the Night Necklace(2008年) | ブラックゴールド、サファイア、ルビー、ダイヤモンド / Right : Contra Mundum(2011年) | ホワイトゴールド、プラチナ、ダイヤモンド(52 carat)

ここまでの紹介だと、ショーンがランウェイ用の奇抜なアイテムだけを制作していたかのような印象を与えてしまうかもしれないが、そんな事は決して無い。ファッションとハイジュエリーの世界は近いようでいて遠く、全く異なるシステムで機能しているが、ショーンはこの二つの世界の間を自由自在に動き回れる存在だと言える。ショーンはハイジュエラーとしての腕前も一流であり、ブシュロンの150周年を記念してデザインしたネックレスや、世界的ファッションアイコン、ダフネ・ギネスとのコラボレーションで制作したイブニング・グローブなどには、彼のハイジュエラーとしての高い表現力と技術力を見て取れる。

美術館に展示されたりオークションで取引されたりと、非常に芸術性が高いショーンのジュエリーだが、コマーシャルなラインは意外にも、幅広い客層が楽しめる価格設定になっている。ここまでのレピュテーションを持つジュエラーであればもっと高額に設定されていても全く不思議ではないのだが、洗練されたデザインをスノッブではない価格帯で提供している。この一面を切り取ってみても、一流ハイジュエラーの技術を持ちながらも一般的なハイジュエラーのマインドには嵌らない、ショーンらしさが垣間見れると思うのだ。

 


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