ダイヤモンドが調達される過程で起こり得るさまざまな問題の解決に向けて、精力的に活動を続けている「ダイヤモンド・フォー・ピース(DFP)」。前編に続いて、後編にあたる今回も代表理事・村上さんにお話をお伺いします。
前編ではダイヤモンドの問題とDFPの活動について詳しくご紹介しましたが、後編では私たち消費者にできることや、より良い未来のために必要なことを考えていきます。
倫理的なダイヤモンドを
どうやって選べばいい?
いま私たちが人道的・環境的配慮がなされたダイヤモンドを選びたいと思った時、どのような選択肢があるのでしょうか。紛争ダイヤモンドの流通を防ぐ仕組みとしては「キンバリー・プロセス」がよく知られていますが、村上さんは懸念を抱いていると言います。
「アフリカの内戦の資金源となるダイヤモンド原石の流通は、キンバリープロセス(※1)によりある程度減ったかもしれません。しかし現在キンバリープロセスは形骸化してしまったと個人的には思います。最近で言うと、ロシア産ダイヤモンドの例が挙げられます。キンバリープロセスによる紛争ダイヤモンドの定義は、『反政府軍による紛争の資金源として用いられるダイヤモンド原石』です。ロシアの場合、ウクライナを攻撃しているのは反政府軍ではなく政府軍なので、この定義に当てはまりません。ですので、キンバリープロセスはロシア産ダイヤモンドを『紛争ダイヤモンド』とは認定していないのです。しかしロシア産ダイヤモンドは、ロシア政府が1/3を所有するAlrosa(アルロサ)という企業が採掘しており、その利益はロシア軍に提供されているという報告もあります。」
(※1)「キンバリープロセス」について詳しくはこちらをご覧ください
「現在、人道的・環境的配慮がなされたと確認できるダイヤモンドの選択肢は非常に少なく、カナダ産またはオーストラリア産がそれにあたります。途上国で採掘されたダイヤモンドで人道的・環境的配慮がなされたことを確認できるものはほとんどありません。近年はラボグロウンダイヤモンド(※2)が台頭してきており、人道・環境に問題がないという広告宣伝をされることも多いですが、これは誤りです。具体的な根拠を示すことなく人道・環境によい(問題がない)と謳うのはグリーンウォッシュ※にあたります。日本だけでなく他国も同様ですが、多くの一般消費者の方々が、店頭で言われる宣伝文句を鵜呑みにしてしまう傾向があるのは残念に感じています。」
(※2)「ラボグロウンダイヤモンド」について詳しくはこちらをご覧ください
※グリーンウォッシュ・・・実態が伴わないにも関わらず、消費者の誤解を招く表現を用いて「この商品は環境に良い」と見せかけること
「紛争ダイヤモンドだけでなく、児童労働、強制労働、環境破壊など、現在流通しているダイヤモンドの多くはあらゆる問題をはらんでいます。キンバリープロセス証明書があるから大丈夫とか、『〜国産』なら全てOKとか、ラボグロウンなら良いとか、そういったことはありません。小売店で様々な質問をし、納得いく回答を得られたダイヤモンドを選択することが重要だと考えます。」
まだまだ人道的・環境的に配慮されたダイヤモンドの選択肢は少ないので、正しい情報を得た上で選ぶことが必要だと言えそうです。では、新たな資源を採掘せずに二次流通し循環していく素材の可能性はどうでしょうか。最近ではデッドストックの宝石を扱うブランドが増え、貴金属の分野ではリファインメタルの取り組みが広まりつつあります。村上さんの見解を聞いてみました。
「再び環境を破壊したり人権侵害を起こす可能性が低いという点では一定の意味があると思いますし、限られた資源を有効活用するという意味でも推進されるべきことだと思います。」
「一方、例えばの話ですが、内戦の資金源になったダイヤモンドがあるとして、それが二次流通すると『サステナブル』『トレーサブル』と形容されるのは、グリーンウォッシュのように見えなくもありません。抜け穴をできるだけなくす認証基準の策定・運用、そして購入者がきちんと理解できるような啓発活動が大切だと思います。」
現時点では、倫理的な面で100%納得できるダイヤモンドを探し出すのは大変かもしれません。それでもダイヤモンドジュエリーに無性に惹きつけられてしまうという人は、少なくないはずです。村上さんが考えるダイヤモンドの魅力とは何でしょうか。
「天然ダイヤモンドは地球にまだ人類が存在しない何十億年も前に形成された、地球からの贈りもの。人の性格がそれぞれ異なるように、天然ダイヤモンドはそれぞれの特徴(色・形・インクルージョンなど)が異なっており、神秘的であると同時にその特徴が愛らしい点が魅力だと思います。とても魅力的な宝石だからこそ、その背景も含めて多くの人に知ってもらいたいです。」
これからのダイヤモンド・フォー・ピースについて
「上で少し触れましたが、リベリア現地で結果を出しつつある組合員の存在は、DFPの存在意義を証明していると思いますし、私たちのやりがいにも繋がっています。学んだことを実践する、と言うのは簡単ですが、実際にそれを行うのは大変です。リベリアの例で言うと、採掘者たちは『ダイヤモンドは飛行機を飛ばすために使われる』『ジーナという女悪魔がダイヤを地中に埋めているから、採掘量を増やすにはお供えをしないといけない』等の様々な迷信を聞かされ、それをずっと信じて生きてきました。彼らを搾取する資金提供者や仲買人たちが真実を教えることはまずないでしょう。更に電波状況が悪くインターネットが使えないため、外部からの情報を得ることもできません。こうして彼らは、他の世界から隔絶された社会に生きています。この状況下で私たちが『ダイヤモンドは宝飾品に使われるから価値が高い』『ダイヤモンドは火山活動の中で炭素が結晶化したもの』と伝えても、すぐに信じられるはずがないですよね。そんな中、DFPを信じて結果を出しつつある組合員が実際にいるのです。このような組合員はまだ少数ですが、彼らが成功すれば他の組合員もそれに続くと信じて活動を続けています。」
DFPの始動から10年が経とうとしています。村上さんは、これから先の10年をどのように構想しているのでしょうか。
「あっと言う間の10年です。特に西アフリカは数年に一度疫病が流行し、手掘りダイヤモンド採掘者への自立支援がなかなかできない時期もありました。私たちが行う自立支援は、なにかモノを与えるのではなく、自分たちでモノを作ったり収穫したり稼いだりできるようになる能力開発を主としています。多くの採掘者が陥っている貧困の連鎖は、DFPが指導した内容を彼ら自身が実践し、自らの収入を上げることでしか、断ち切れません。そう遠くない未来、彼らが自分たちの資金だけで採掘したダイヤモンドを国際市場に流通させられる時が来るはずです。なので、現在はそのサプライチェーン構築にも力を入れています。これまでの10年はDFPも現地の採掘者たちも忍耐、また忍耐の連続でしたが、自分たちの資金のみ、かつ責任ある採掘方法で採掘したダイヤモンドを国際市場に流通できれば、他の組合員もそれに続こうと今よりもっと努力するだろうと考えています。そんなよい循環を次の10年では回していきたいと思います。」
今回、前編・後編にわたってダイヤモンド・フォー・ピースの代表理事・村上さんのお話を伺い、ダイヤモンドを取り巻く現状やDFPの活動について詳しく教えていただきました。
<ポイント>
・ダイヤモンドは不透明な部分が多く、誤った情報も広まりやすい
・倫理的に100%納得できるダイヤモンドは現状少ないため、正しい情報を得た上で選ぶことが大事
・今後10年のDFPは、能力開発を主とした支援を続けながらサプライチェーンを整え、採掘者が自ら正規市場にダイヤモンドを流通させられることを目標に活動していく
人道・環境に配慮されたダイヤモンドにご興味をお持ちの方は、ダイヤモンド・フォー・ピースまでお問い合わせください。
>>問い合わせ先はこちら
■ダイヤモンド・フォー・ピース(Diamonds For Peace)
2014年5月創業(任意団体として活動開始)、2015年3月20日NPO法人設立。役員:5人、有給職員:日本1人/リベリア4人、無給ボランティア:約60人のメンバーで活動し、2023年10月現在、法人と個人をあわせて約60の会員を擁する。ビジョンは「ダイヤモンドが人道・環境配慮の上、採掘・カット・製造される社会」。
法人会員「R ethical」代表・星さんからのコメント
「代表の村上千恵さんと一緒に環境省主催のイベントに登壇したことがきっかけで、DFPに出会いました。私は創業以来、エシカルな素材を世界から調達し日本で製品化するブランドを運営しています。ダイヤモンドの背景にある人権侵害の著しさは理解しており、リベリアでの活動、NPO法人としての研究活動などに共感し、少しでも寄与したく法人会員になりました。ジュエリーを扱う存在として、調達する製品にエシカルな取り組みがなされているかを担保することはとても大切です。会員になったことで、マラウィでエシカルに採掘された天然石を譲り受け、製品化し、チャリティジュエリーとして販売、寄付できました。また、綿密な研究成果の記載された会報誌をいただけるなど、より理解を深められています。」
法人会員「ColouR」代表/デザイナー・yokoさんからのコメント
「以前よりダイヤモンドの採掘の問題が気になっておりましたが、当時は日本に入ってきた時点で99%ルートを辿れないと言われ、何が正しい選択か頭を悩ませておりました。そんな折にDFPのサイトを発見し、すぐに代表の村上さんに連絡させていただきました。DPFを通じて、100%クリアなルートで現地の支援もしている会社からダイヤモンドを購入できるようになりましたし、活動の様子を詳細にレポートいただき、自分も近い将来現地に視察やボランティアに行くという目標ができました。宝石のトレーサビリティを大事にして、必要な分だけを仕入れ、永く受け継がれるジュエリー作りを心がけています。」
ダイヤモンド・フォー・ピース・サポーター
ダイヤモンド・フォー・ピースでは、ビジョンや活動内容に共感する方からの寄付を募っています。「ダイヤモンドが人道・環境配慮の上、採掘・カット・製造される社会」を実現するため、ダイヤモンド・フォー・ピースの活動に貢献しませんか。詳しくは公式サイトをご覧ください。