2021年末、D2Cジュエリーブランド《ARTIDA OUD(アルティーダ ウード)》を離れ、自身のブランド《sharanpoi(シャランポワ)》を立ち上げて新しいスタートを切った安部真理子さん。東洋の工芸を取り入れ、話題の Heritage Gemes を用いた独自のデザインが注目されています。
既成概念にとらわれない自由な姿勢でジュエリーに向き合う彼女から、《sharanpoi(シャランポワ)》に対する思いを語っていただきました。どうやら”受け継ぐ(Heritage)”がキーワードのよう。そこから見えてくるジュエリーの可能性を探ってみます。
インドで出会った
ポルキがはじまり
「ジュエリーの仕事でインドに足を運んでいくうちに憧れを抱くようになったのがポルキ(※)。あの独特のぽってりしたボリューム感に目を奪われますが、ダイヤモンドにある程度の大きさが必要で、職人による高度なテクニックも必要とするため容易に発注できないこともあり、いつか絶対にポルキのジュエリーをつくる!と誓いながら私の中でずっと温めてきた存在でした。ですので《sharanpoi(シャランポワ)》はポルキへの思いが募り募って生まれたブランドでもあります」
※ポルキ……インドで古くから伝わる、ダイヤモンドの原石の形状を生かしてカットする加工技術のこと。または、そのダイヤモンド自体を指すことも。
「試作を繰り返す中、ポルキだけでなく、インドをはじめ日本を含む東洋の工芸的なエッセンスを取り入れたい気持ちが芽生えてきました。いろいろリサーチした結果、インドのエナメル、日本の漆や象嵌を取り入れることに。黒好きなので黒をベースカラーにしています。工芸に注力するとクラシックになり過ぎてしまい、現代のスタイルに合わせるとジュエリーだけが浮いてしまう。また、ピカピカに磨き込まれていたり、地金のラインや太さを寸分の違いもなく均一に仕上げていたりするのも、私が追い求めるジュエリーとはちょっと違って……。工芸の良さを生かしつつモダンなデザインに、なおかつ職人の手仕事を感じられる一点物のつくりを心がけるようにしています」
自由につくる先にあった
Heritage Gems
「古いものや代々受け継がれていくものが好きです。いつどうしてそうなったのか問われると自分でも分からなくて……。昭和から平成にかけて青春を過ごした身としては、あの頃は常に新しいものを受け入れていたと思うんです。その反動かもしれません。気づくと東洋のアンティーク家具などを集めるようになっていました。《sharanpoi(シャランポワ)》のブランドコンセプトが定まらず頭を抱えていた時、『安部さんの良さは東洋ベースのミックス感。変に考えずに自由にやってみたら?』と仲間から言われてモヤモヤが晴れました。いろんなことに縛られず、私が魅かれる古いものや伝統的なものをエッセンスにしながら自由につくってみようと。ポルキから始まって漆やエナメルといったインドや日本の工芸、さらに年代物のジュエリーから取り外した中古の貴石を集めていたので、それらも使うことにしました」
「インド人にとってジュエリーは財産なので絶対に売らず、ヨーロッパの人々は何世代にも渡ってジュエリーを受け継ぐのが風習になっています。それらに対し、日本人はそういう文化が希薄で売ってしまうケースがほとんどだそう。ブランドのバッグと違い、金の価値は上がっていますし、貴石の価値も下がることはないでしょう。ですが日本の場合、本来の価値よりもかなり低い金額で中古の貴石の売買が成立し、世界中のバイヤーが買っている。その現状が社会的な問題になっています。どこでどのように採掘された貴石なのか、出どころは分かりません。けれども新たに採掘するよりは、有るもの受け継いで使うことのほうが、私には意味があると思っています。《sharanpoi(シャランポワ)》では中古の貴石を Heritage Gems(※)と呼んでいます。様々な事情や見解がありますので一概には言えませんが、選択肢の一つとして Heritage Gems が多くの人に親しまれる存在になっていってほしい。ですのでジュエリーをつくりながら、そういう環境に整えていくことが、私にとってミッションだと感じています」
※Heritage Gems/ヘリテージ ジェムズ……昨今、欧米のジュエリーシーンを中心に、中古の貴石をそう称えて呼ばれることが増えています。
「とはいえ、お客様が Heritage Gems を受け入れてくださるか最初はドキドキしましたが、『全然気にしない』という声をたくさんいただき、ホッと胸を撫で下ろしました。《sharanpoi(シャランポワ)》のお客様は自由なファッションを求め、伝統やクラフトマンシップという言葉に敏感な方が多いと思います。その感覚でジュエリーを選んでいるから視野も心も広いのかもしれません。受け継ぐことの大切さ。それを別のアプローチでも表現したく、お手持ちのジュエリーをリデザインしてつくり替えるオーダーも受け付けています。予想以上に反響が大きくて驚きました。売るよりはつくり替えて身につけたいと話すお客様が実に多い。様々なリクエストに応えられるよう、もっと力を入れていきたいです」
サロンを拠点に
日本の工芸を追い求めて
「販売員からキャリアをスタートしたこともあり、デザイナーになった今でもリアルの接客は好きです。だから、前職でD2Cのブランドを手がけていたのでオンラインショップの重要性はよく分かっているものの、《sharanpoi(シャランポワ)》ではリアルに重きを置いてアポイントメント制のサロンを設けました。コロナ禍でもありがたいことに友人が友人を呼んでくれて少しずつお客様と触れ合う機会が増えています。仲間のスタイリストさんからの提案で、ジュエリーだけでなく服も一緒にトータルコーディネートができる場にしてみてもいいかもしれません。このサロンを拠点に様々なことが発信できたらいいですね」
「その一環として、日本の工芸をもっと追求していきたく。次の新作では作家さんに協力していただき、ガラス工芸を用いたジュエリーを発表する予定。《sharanpoi(シャランポワ)》の活動と並行して西陣織の商品開発やPRのお手伝いもしていて、今、ジュエリーと掛け合わせた西陣織のアイテムを企画しているところ。近くこのサロンでお披露目しようと考えています」
「インドの人々は着るのが大変なのにサリーを毎日着ていて、その姿を見る度に、日本人なのに着物を日常的に着ない私はどうなんだろうと自問していました。日本の工芸にたくさん触れ、受け継がれていくものの良さや文化を体感することで、アイデンティティを見出せるかもしれません。そうしたらジュエリーの可能性がもっと広がる気がします」
PROFILE -《sharanpoi(シャランポワ)》代表&デザイナー 安部真理子/Mariko Abe
ラグジュアリーブランドのMD、バイヤーを経て、2018年にD2Cジュエリーブランド《ARTIDA OUD(アルティーダ ウード)》の立ち上げに参画する。その後、同ブランドのディレクターを退任し、2021年12月に「sharanpoi」を設立。外部の商品開発やプロモーションに携わるなど、コンサルタントとしても活動中。
公式HP | https://sharanpoi.com
Instagram | @sharanpoi.boudoir