魅力的なジュエリーを手がけて発信していくために法律を理解することは必須。グローバル化が進む中、もう「知らなかった」では済まされない時代です。
今年1月、三村小松山縣法律事務所においてファッションローの専門チーム「ファッションロー・ユニット」が結成されました。そのチームの一人で、ファッションエディターでもある海老澤美幸弁護士にインタビュー。結成した理由をはじめ、今問題視されている海外とのトラブルや模倣などの事例を挙げながら、法律の重要性について語っていただきました。
日本ではなじみの薄いファッションローに特化
いつでも相談できる弁護士を目指して
ニューヨークにあるフォーダム大学のスーザン・スカフィディ教授が、2006年にファッションローのコースを立ち上げた後、2010年、アメリカファッション協議会からの援助を受けて同大学内にNPO法人「ファッション・ロー・インスティテュート」を設立しました。
それを機に、アメリカを中心に、ファッションローの概念が少しずつ広がっていきます。ちょうど私自身も、ファッション業界の法律問題を解決したいとファッションエディターを休業してロースクールに入ったタイミングでした。たまたま読んでいた新聞でファッション・ロー・コースの記事を見かけ、非常に興奮したことを覚えています。
それから10年が経ち、アメリカでファッションローが体系化して確立されていく流れを受け、日本では2014年に「ファッション・ロー・インスティテュート・ジャパン」が立ち上がりました。そうした活動のおかげで日本でも少しずつ「ファッションロー」の概念が広がってきているものの、一般的にはまだなじみが薄いのが現状です。他方で、ファッションに関するご相談は非常に増えており、その内容もどんどん複雑化しています。トラブルが起きてから法律事務所の門を叩くイメージを持っている方が多いかもしれませんが、それでは遅いケースがほとんど。そうならないように事前に弁護士と連携し協力することが大切です。
私が所属する三村小松山縣法律事務所は、ファッションローに注力するメンバーがそろっています。ファッション業界やジュエリー業界はもちろん、より多くの方々にファッションローの重要性を伝えたいと考え、同事務所内で新たに立ち上げたのが「ファッションロー・ユニット」です。弁護士は敷居が高いというイメージを変え、ファッションに関する悩みをいつでも相談できる弁護士を目指しています。
小松隼也弁護士と私を中心に、元裁判官の三村量一弁護士、玉井克哉教授、塩川泰子弁護士、中内康裕弁護士の計6名。メンバーそれぞれがユニークなバックグラウンドと得意分野を持っているので、様々な角度からアドバイスできるのが強み。また、国や行政に対し、こういう法律をつくってほしい、法律をこのように改正してほしいといったロビイング活動にも力を入れています。
覚えておきたい
「意匠権」「著作権」「不正競争防止法」
ファッションやジュエリーと「法律」というと、やはり真っ先に思い浮かぶのがコピー商品の問題ではないでしょうか。最近はSNSなどでもしばしば炎上しており、ファッションやジュエリーのパクリ問題に対する人々の関心が高まっていると感じています。そのためか、コピー商品のご相談も多く、中でもジュエリーに関するご相談が増えている印象です。特に「海外ブランドでウチと似た商品が出ている」「海外のデザイナーからクレームがきたんだけど、どう対応すればいいか?」といった海外関連のケースが目立ちます。模倣にあたるのか、また模倣しない・されないためにはどうすればいいか。こうした疑問を考える際に知っておくべき法システムが、「意匠権」「著作権」「不正競争防止法」の3つです。
まず、おそらくは皆さんにもなじみのある「著作権」から。著作権は、ざっくりいうと、個性や世界観を表現した創作物を保護する権利。登録は不要で、創作とともに自動的に発生するのが特徴です。著作権法では「思想または感情を創作的に表現したもので、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの」が保護されます。実は、ファッション、ジュエリーなどの大量生産を前提とした実用的なデザインが著作権法で保護されるかどうかについては、この「美術…の範囲に属する」かとの関係で、非常に難解な議論があります。
ポイントだけごくごく簡単に。量産されている実用的なデザインでも、実用的な機能から離れて美的鑑賞の対象となる美的表現である場合は、著作権の保護が受けられる、とされています。要は、実用的なデザインでも、アート作品のように鑑賞できるレベルならOKということ。個々のデザインにより判断することにはなりますが、ジュエリーは、洋服などよりもより端的に美しさやデザインを強く打ち出すことが多いことから、著作権で保護される可能性もあるようには思います。とはいえ、著作権法で保護されるハードルはこのように低くはないのが実情です。
著作権法では保護されにくい実用的なデザインを、まさに正面からカバーするのが「意匠権」。実は、著作権法が実用的なデザインの保護に謙抑的なのは、この意匠権との間で住み分けをしているからだといわれています。意匠権で保護されるためには、物品とセットで登録することが必要。簡単には創作できない新しいデザインであれば登録可能で、登録しておけば、出願の日から25年間、コピー商品の販売を差し止めたり、損害賠償を請求することができます。
ただ、少しばかり難点があります。まず、発表前、遅くとも発表から1年以内に出願しなくてはいけないこと。登録には費用がかかること。そして、登録に6か月から1年近くもかかること。大量に商品が製造され、ライフサイクルが短いファッションでは、これらの点がネックで登録がなかなか進まない現状があります。他方、ジュエリーは、比較的サイクルが長いことも多く、ロングセラーのヒット商品ということであれば数を絞れることも多い。
ジュエリーのデザインを守る手段として、意匠登録は現実的にとり得る有効な方法だと思います。先ほどもお伝えしたとおり、発表前、遅くとも発表から1年以内に出願する必要がありますので、ブランドのアイコニックなデザインや、ロングセラーにしたい商品は、急いで意匠登録されることをお勧めします。
3つ目が「不正競争防止法」。聞き慣れない方も多いかもしれませんが、実は、ファッションやジュエリーのコピー商品で最もよく使われる法律といっても過言ではありません。特によく使われるのが、2条1項3号という規定。これは、いわゆるデッドコピー(丸パクリ)を規制する規定で、まさにデザインを保護するもの。2条1項3号で保護される期間は国内での販売から3年間と期間の制限はあるものの、登録が不要なこともあり広く使われています。この2条1項3号が規制するのはどんな場合かというと、「他人の商品の形態に依拠して、これと実質的に同一の形態の商品を作り出すこと」。ざっくりいうと、他人の商品を参考にして、これと実質的に同じデザインの商品を作り出すことはNGとされているわけですね。
法律上の模倣を理解しながらジュエリーをつくること
このように、ジュエリーデザインを取り巻く法システムは単純ではなく、何が模倣にあたるかの判断も難しいのが実情です。ただ、だからこそ、クリエイターの皆さんには、法律を正しく理解していただき、法律を味方につけてほしいと思っています。法律を最大限活用し、ご自分のデザインという財産を戦略的に保護することも可能です。法律上何がダメで何がOKか、その線引きを知ることで、クリエイティブな幅も広がります。
ファッションやジュエリーは、ある意味、模倣を繰り返すことで発展してきました。他方で、ある人が熱意と労力をかけて生み出したデザインを無にするような行き過ぎた模倣は、当然規制されるべきでしょう。熱意・労力・費用・時間をかけて生み出したデザインは財産ですよね。デザインという財産をきちんと守る、そうした意識を持つこともとても大事だと感じています。その方法を一緒に考えるパートナーとして、弁護士にご相談いただくのも一つの選択肢だと思います。
契約でのトラブルを回避するためには
模倣以外にも問題は山積ですが、ファッション、ジュエリーともに、契約関係の案件は非常に多いですね。特に最近は、海外との契約に関するご相談が増えています。そもそも契約書を作成しないことがデフォルトともいえる業界ですので、口約束で進めてしまい、そこからトラブルに発展するケースがとても多い。当初は良好な関係からスタートした場合でも、その後に両者の関係が悪化したり、相手方の担当者が代わったりなど、状況の変化によりトラブルに発展するケースが後を絶ちません。
クリエイターの方にいつもお伝えしているのは、「契約書の形でなくてもいいから、必ず両者で決めた条件を文面に残してほしい。メールやLINEでOK」ということ。こうした証拠を残すという意識がとても重要です。
ジュエリーとお客様を守るために
ファッションローと向き合う
最近では大手だけでなく、個人規模の小さな会社の方からもご依頼をいただくことが増えています。自分たちが一生懸命につくったジュエリーを守りたい、信頼してくださるお客様も守りたいから、と。
ファッションローは新しい分野でまだまだ浸透しているとはいい難い状況ですが、こうして少しずつでも、自分の作品やお客様を守りたいという意識を持つクリエイターの方が増えることは、本当に喜ばしいことですね。模倣や契約に限らず、法システムの中でクリエイティビティを発揮することが、ブランドも、またブランドのことを信頼してくれるお客様を守ることにもつながります。
ジュエリーを手がける皆さんには、ぜひファッション・ローを知っていただき、こうした意識を持っていただけると嬉しいです。私たち弁護士はそのお手伝いができればと思っています。
なお、弁護士には、ぜひともトラブルが起きる前に、たとえばプロジェクトを始めるなど、デザインを開始するタイミングで相談してください。弁護士はトラブルが発生してから相談するもの、と思っている方も多いと思いますが、実は、トラブルが起きてからでは、弁護士ができることは限られています。また、時間がかかることも多く、費用もかさみます。これに対し、トラブルが起きる前にご相談いただければ、できる選択肢も多いですし、費用も時間も労力もぐっと抑えられます。こうしたデイリーな弁護士の活用についても知っていただけると嬉しいです。
Profile – 海老澤美幸(Miyuki Ebisawa)
弁護士、ファッションエディター。1998年、慶應義塾大学法学部法律学科を卒業後、自治省(現総務省)に入社。翌年、宝島に入社してファッション誌の編集に携わる。2003年、ロンドンにてスタイリストアシスタントを経験し、その後、フリーランスのファッションエディター兼スタイリストとして雑誌『ELLE japon』『GINZA』『Casa Brutus』などで活動する。2014年、一橋大学法科大学院修了。2017年、弁護士登録(第二東京弁護士会)。ココネ株式会社、林総合法律事務所を経て、2019年より三村小松山縣法律事務所に所属。2021年1月、同事務所内にて「ファッションロー・ユニット」を結成。
三村小松山縣法律事務所 | https://mktlaw.jp
Text by Yoko Yagi