六角柱の結晶、エメラルドに魅せられて《Honoka’s Emeralds》インタビュー − 後編

2020.2.25

2017年に放送されたテレビ番組「情熱大陸」に“エメラルドハンター”の肩書で登場した《Honoka’s Emeralds(ほのかのエメラルド)》のデザイナー・川添微(ほのか)さん。インタビューの前編では、幼少期からジュエリーデザイナーになるまでのストーリーを紹介。後編では、彼女を突き動かすエメラルドの魅力とクリエイティブの裏側を伺います。

Honoka’s Emeraldsは、なぜエメラルドなのか?

「どうしてエメラルドなの?とは、よく聞かれますね。バイヤーとして仕事していた時は、もちろんエメラルド以外の宝石も扱うこともありましたし、鉱物各々で美しさがあることも分かります。でも私が鉱山に入って一番魅了されたのがエメラルドだったんです。この宝石は自然界では六角柱の美しい佇まいをしていて、原石そのもので充分きれいなのに人の手でカットする必要があるの?と常々思っていました。市場に出回っているエメラルドの99%が人の手によってカットされたものと言われていますし。でもきっと私と同じような価値観でエメラルド原石の美しさに共感してくれる人がいるはずだし、届けたいという思いがブランドの原点にあります。ブランドがスタートした初期にはエメラルドにオニキスを合わせたデザインを手がけていたこともありますが、現在展開しているジュエリーはエメラルドのみのデザインが中心です」

自然界が生み出したエメラルドの色や形をそのまま身に纏うジュエリーに昇華する。そのデザインは、インドネシア・バリ島に移住してから、より有機的なフォルムに変化していったそう。

「ニューヨークで制作していた頃に比べて、デザインは曲線のものが増えていきましたね。自然に囲まれた土地での生活も影響があるとは思いますが、何よりバリ島の職人文化も大きいと思います。私が手がけるジュエリーは原石に合わせてのデザインが核となるので、1点ものが大半です。そうすると1点ずつ加工が異なるため、その当時は日本で引き受けてくれる職人さんには出会えなかったんです。でもバリ島の職人にとってはそんな無理難題も問題ないようで、腕がよい職人に安価で頼むことができるのです」

リング「ソレゾレ」 コロンビアエメラルド原石 ムゾー鉱山 k18 イエローゴールド

リング「the earth in the planet」 コロンビアエメラルド原石 ムゾー鉱山 k18 イエローゴールド

エメラルドからインスパイアされたネーミング

《Honoka’s Emeralds(ほのかのエメラルド)》のデザインには、一つひとつ名前がつけられている。1点もののデザインが多いので1点ずつに異なるネーミングがあることになるが、興味深いのはその名前が英語、日本語が混在していること。

「私のデザインはその原石から見た光や色が、私自身のなかにある遠い昔のイメージとリンクすることで形作られていく感じです。過去の記憶とエメラルドの原石がくっつくと言えば、少し理解いただけるでしょうか。だからネーミングも、日本語と英語が混在しています。大体は鉱山で掘り出された石の状態で、イメージとネーミングが浮かびますし、掘っている最中からジュエリーを作りたくてしょうがないほどの衝動に駆られます。そうして90%はファーストインスピレーションで決まりますが、ごく稀になかなかたどり着けない原石と出会うことも。そうするとお財布に入れて持ち歩いてはふとしたときに眺めてみたり、夜中にお酒を飲みながら愛でてみたりという日々を過ごす場合もあります。でも、生みの苦しみというのは感じたとことないですね。じっくりと眺めていればふわっとエメラルドが遠い記憶と重なってくれるので、ただその瞬間を待つだけです」

ピアス「試行錯誤」 コロンビアエメラルド原石 チポール鉱山 k18 イエローゴールド

ネックレス「通り雨」 コロンビアエメラルド原石 チポール鉱山 k18 イエロー/ホワイトゴールド

最古の自然破壊に対して、自分なりの責任を果たしたい

「宝石って美しい世界の反面、人類の歴史上で考えると最古の自然破壊という側面があると思っています。そのことは忘れてはいけないと思うし、私なりの責任を果たしたいという思いがあります。原石の一つひとつが我が子のように愛おしいですし、だからこそ石を採るところから、ジュエリーにして誰かの手に届くまですべてをしっかりと見届けたい。その石に関わった以上は私の責任だと思うので、ご購入いただいたジュエリーに何かあった場合はすべて無償で修理することにしています」

現在、川添さんは1年のうち1ヶ月ニューヨークに滞在し、その間の2週間は南米コロンビアの鉱山へ足を運び、エメラルドを採掘している。そしてバリ島に持ち帰った原石をジュエリーに仕立て、アジアを中心に年に数回の個展を開催している。

ネックレストップ「月下美人」 コロンビアエメラルド原石 コスクエス鉱山 k18 イエローゴールド
チェーン「simple」 コロンビアエメラルド原石 コスクエス鉱山 k18 イエロー/ホワイトゴールド

リング「ふきのとう」 コロンビアエメラルド原石 ムゾー鉱山 k18 イエローゴールド

エメラルドとエメラルド以外の狭間で

エメラルドの歴史は古く、ダイヤモンド、ルビー、サファイアと並び、その希少性から世界の4大宝石にも数えられている。翠玉(すいぎょく)、緑玉(りょくぎょく)という和名もあり、その一般的な価値基準は色が濃くて透明感が高いものとされている。なかには緑の薄い黄緑色をした石もあるが、その場合はエメラルドとして扱われることはなく、ヘリオドールやグリーンベリルと呼ばれ、その価値も著しく下がる。

「じつは私個人のエメラルドの好みは、色の濃いものよりも黄緑色に近い方が好み。黄緑色でも美しい原石は多く、本当はそうしたものも紹介したいのですが、宝石界の基準と自分の理想にジレンマはありますね。また、エメラルドと聞くと日本ではエメラルドカットの豪華な指輪や帯留めなど宝飾のイメージが根強く、日々カジュアルに身に着ける印象が弱いという側面があります。こんな魅力的な石を、もっと気軽に楽しんでもらえるようになってほしいし、エメラルドの魅力を幅広い年齢層の人たちに届ける一助になれればいいなと思います」


インタビューを終えて《Honoka’s Emeralds(ほのかのエメラルド)》のさまざまなジュエリーを眺めていると、あなたにはコレがきっと似合うわと手渡してくれたリングがあった。その大振りのリングは存在感のある六角柱の石を留めたデザインで、淡い黄緑色の石だった。「鑑定待ちだから、場合によってはエメラルドとは言えないんだけどね。こんなに素敵なのに、もったいないわよね」と川添さんは笑った。


Profile 《Honoka’s Emeralds》川添微
1971年兵庫県生まれ。香川県瀬戸内海の沿岸の田舎で育つ。大学中退後、東南アジアやオーストラリアを旅しながら「自分に向いた仕事は何か」を考えた。インドネシア・バリ島でオニキス、ラビスラズリ、水晶の加工を学び、オーストラリアではオパールの採掘、研磨に携わる。その後、エメラルド原石輸入会社に就職。そこで5年間、女性では珍しいバイヤーとして南米・コロンビアの山で採掘や研磨、加工に携わる。ジュエリーデザイナーとして独立するため7年後、世界的な宝石学の教育機関GIA(Gemological Institute of America)ニューヨーク校で学び、宝石鑑定士の資格を得てニューヨークを拠点に制作を始める。現在は、バリ島の自宅兼アトリエで制作を行っている。
公式HP | https://honoka.us


Text by Naoko Murata
Photo by Daisuke Ito(SIGNO)


エメラルド原石と植物の呼吸《HONOKA KAWAZOE(ホノカカワゾエ)》Exhibition – 学芸大学





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