今夏、オパールを求めてシドニー、ライトニングリッジ、ゴールドコーストを旅した《talkative(トーカティブ)》代表・デザイナーのマロッタ忍さん。インタビューの前編では、鉱山で体験した採掘の話やオパールショーの買い付けの様子を伺いました。後編では、ジュエリーに石を使ってデザインするようになった経緯やオーストラリアで買い付けてきたオパールやティールサファイアを使ったジュエリーの話を語っていただきます。
選ぶ人で個性が変わる、オパールの魅力
「天然石の魅力は各々に尽きませんが、なかでもオパールは虹のような輝きをもつ遊色効果の色は幅広く、インクルージョンや色の重なりなど表情が十人十色。選ぶ人によって個性がさまざまというのが、この石の魅力だと思います。
また、オーストラリアが国を挙げて推薦しているもう一つの隠れた逸品、ティールサファイアにも出会うことができました。『鴨の羽』色のティールサファイアの中でも、グリーンからピーコックブルーが混ざり合ったとても美しいパーティーカラードティールサファイアを選んできました。まだ流通も少ないレアストーンはぜひ多くの方にご覧いただきたいですね」
「今回の旅では何と言っても石屋さんとのコミュニケーションや、鉱山で働くマイナー(オパール鉱山のオーナーや、掘る人)や現地の研磨師など職人から直接話を聞けたことも大きな収穫です。何かを極めている人の話を聞いたり、彼らのバックボーンを知ることが個人的に好きということもありますが、そうして巡り合った人たちのエッセンスをほんの少しでもプロダクトに反映できたらいいなと常々思いながら《talkative(トーカティブ)》のジュエリーを手がけています」
石への情熱がプロダクトに昇華するまで
学生時代からの石好きが高じて、現在では世界中から石の買い付け&デザインもしているマロッタ忍さん。しかしブランドをスタートさせた当初、一点物の石たちはあくまで作家作品または個人コレクションでしかないと思っていたと言う。
「ブランドを始めた当時は、時代の流れとしても量産のジュエリーが主流で一点物をブランドとして扱うところはほぼ無く、そもそもその一点物に対応してくれる職人さんにも出会えていませんでした。だから企業に勤めていた時も、石はあくまで自分自身のコレクションとしてコツコツ集めていただけだったんです。
契機となったのはブランドを始めて2年ほど経った頃、私の石コレクションをバイヤーさんに見せながら熱い思いを語ってみたんです。そうしたら彼女から『これは絶対にプロダクトにすべきだよ!』と言っていただき、最初は『嬉しい!でもどうやって始めれば良いのだろう? 』と悩みましたね」
そうして実現したのが、H.P.FRANCEで初開催となった天然石ジュエリーのトランクショーだった。天然石を採用しているため従来よりも単価は高めだったがジュエリーは評判となり、続いてBARNEYS NEW YORKでもポップアップを開催することになった。こちらも好評のうちに幕を閉じると、今度はブライダルコレクションを手がけてみないか?とお声がかかり、ブランドとしても大きな転機につながっていった。
「トランクショーを経験して気が付いたのは、一点物の石の魅力は私自身が一番分かっていながらも量産の制作方法に囚われていたことと、考え方次第でクリエイティブは生み出せると言うこと。先ほどお話した(インタビュー前編)学生時代の宝飾学の先生の印象的だった言葉、『透き通った石が宝飾としては美しいかもしれないけれど、人間だってホクロがあったりソバカスがあったりと各々の個性があるのが色っぽくて魅力的。石にも同じことが言えるし、そうした個性ある石が僕は好きだ』と。この言葉に感動した当時の気持ちが蘇りましたね」
「そうして仕入れてきた天然石をそのままの美しさでジュエリーにするコラージュ的なデザインも魅力的ですが、やがて石そのものをデザインしたいと思うようになりました。《talkative(トーカティブ)》というブランドの特徴でもあるグラフィック的なデザインを石で表現できないかなと。そうして誕生したのが『STICK』コレクションです。これは日本古来から伝わる“同擦り”の技法を活かし、石と地金の境目が分からない仕上げになっています。石そのものをスティック状に切り取り、シンプルなセッティングで完成させています。職人さんとのやりとりを繰り返して、商品化するまでに約1年かかりました」
「『STICK』は石の色を見せるスタイリッシュなデザインですが、同時に石の表情を面で見せられるような展開ができないかなと取り組んだのが『CREST』コレクションです。モロッコのタイルやフランスの唐草など海外の文様をモチーフにしてアウトラインを構想し、カットが可能な形と完成形の美しさから5つぐらいのパターンに絞りました。さらにそこから身に付けるジュエリーとしての構造を考えるという試行錯誤を繰り返し、商品化までに約1年半かかりました」
職人の手仕事によって、ブランドを象徴するジュエリーが生まれた
「『STICK』も『CREST』も天然石を金太郎飴のようにカットしたり、型で抜くことで形を作っていると思われている方も多いですが、どちらも1点1点職人の手擦りによって完成しています。これらの複雑かつ繊細な加工を担ってくれている、高度ですばらしい技術をもった職人さんたちのおかげで、思い描いていたジュエリーが形になっています。
もちろん普段お店にお越しいただいた方にはスタッフや私からそうしたモノづくりの背景をお話させていただくこともありますが、なかなか皆さんにお伝えするのは難しいこともあります。そこで11月29日(金)〜12月1日(日)に青山・スパイラルで開催する日本最大規模のデザイナーズジュエリーイベント「New Jewelry TOKYO」では、モノづくりを紹介する映像なども流しながら《talkative(トーカティブ)》をご紹介する予定です。この機会に、ぜひ多くの方にお立ち寄りいただけると嬉しいです」
貴石を意味するラテン語のオパルスに由来し、古来より愛と希望の石として親しまれてきたオパール。取材後、「実は今回の旅を通して、久しぶりに自分自身へのご褒美にとっておきのオパールを購入したんです」と、マロッタ忍さんは微笑んだ。その姿を見ていたら、この旅の出会いと彼女が選んだオパールがきっと未だ見ぬ新しい景色を彼女に届けてくれる気がした。
《talkative(トーカティブ)》の人気ジュエリーは一部、CULET ONLINE STORE でご購入いただけますので、ぜひご覧ください。
Profile 《talkative(トーカティブ)》マロッタ忍
グラフィックデザインの第一線を経験後、ジュエリーデザイン及び制作を学び、大手企業でジュエリーデザインの企画に携わる。JJAジュエリーデザインアワード新人賞、伊丹クラフト展審査委員賞を受賞するなど、グラフィカルでウイットの効いたデザインが注目を集めている。日本の量産向けのジュエリーと海外で見るアートジュエリーの間のような、カジュアルに身に着けられるファインジュエリーブランドがまだまだなかった2008年、グラフィックを学んでいた感性を活かして、この隙間のカテゴリーになれるようなジュエリーブランドをつくりたいと《talkative(トーカティブ)》を設立。
公式HP | http://www.talkative-jwl.jp/
Text by Naoko Murata