2004年のデビューから15年近くの月日が経ち、今ではスタッフが2人から16人へ、3つの直営店を構えるほどに成長した《 hum(ハム)》。自分たちの手でつくることを大切するブランドの世界観について、デザイナーの稲沼由香さんへのインタビュー後編。
スタイルを提案するブランドとして
「10年以上前は、ジュエリーはジュエリー、ファッションはファッションというように二つを別物として捉える傾向でしたが、今はその境界線が良い感じにクロスオーバーしていると思います。私自身、ファッションが大好き。服の延長線上にジュエリーがあってほしい。特別な時だけでなく毎日身につけてほしいからです。ですので服との相性をデザインするうえですごく考えます。
最終的にはスタイルを提案できるブランドを目指したい。そういう意味でもパリにアトリエを構えるジュエラーの『JAR(ジャー)』は私たちの憧れであり目標です。作品が素晴らしいだけでなく、つくる数は年間100点で売る人も決まってる、その人のために職人がつくる、そういったジュエリーブランドのあるべき姿を貫いているところに魅かれます。だから彼らには独自のスタイルがあって、それが作品にちゃんと反映されているからすごい。私たちもそういうブランドでありたい、そういうジュエリーをつくりたい。自分たちのスタイルを確立するために必要なことは何か。その一つが自分たちの店を構えることでした」
店と職人とお客様
「自分たちのスタイルを確立することはブランドの世界観を出していくことにつながります。千駄ヶ谷に1号店を出す時からショップ、アトリエ、オフィス、この3つを一緒にした環境をつくることを考えていました。そうすることでお客様にhumの世界観をしっかり伝えられるはずだ、と。
アトリエは窓越しからお客様にも見えるようにしています。職人が誇りを持って仕事をしてほしかったからです。ユニフォームとして、エプロン以外にブルーカラーのシャツ、ベスト、ネクタイを必ず着用してもらっています。私もかつては職人。過酷な現場を知っている分、それを打破したい気持ちがあってそうしました。
ただ窓越しでお互いを見るだけでなく、実際に交流してもらう機会を設けたく、数年前からこの空間でワークショップを開くように。お客様が職人に教えてもらいながらジュエリーをつくるのですが、予想以上の反響で毎回キャンセル待ちが出るほどの応募をいただき、うれしい限りです。お客様と職人が触れ合う様子はとても励みになりますし、新しい発見があってデザインの創作意欲が湧きます。来年はワークショップ専門のアトリエを福岡に構える予定。どんな交流が生まれるかとても楽しみです」
ビスポークとリモデル
「2人からスタートしたhumは今16人に増えてチームになりました。作家のように貞清と2人だけで続ける道もあったかもしれませんが、最初からその考えは全くなかったですね。自分たちのスタイルを確立することも大事ですが、それ以上にお客さまの喜ぶ顔が見たい。その一心で続けてきた結果、スタッフも店も増えたのだと思います。
昔、私が彫金教室で初めてつくったジュエリーがピーナッツの形をしたシルバーのチャームでした。それを両親にプレゼントしたら、ものすごく喜んでくれたのが本当にうれしくて。それからジュエリーの世界にどんどん魅せられていき……。あの経験があるからお客様の喜ぶ顔を一番大事にしているのかもしれません。最近はお客様の喜ぶ顔をもっと見たくて、リモデルとビスポークにも力を入れています。
親族から譲り受けて眠っているジュエリーのデザインを変えてよみがえらせたり、一点物のオーダーができたりする体制に少しずつ整えているところです。実は代表の貞清は彫り留め(地金に穴を開け、そこに石を埋め込み、地金を寄せて留める技法)という特殊な石留めができる職人。ここまでできるブランドはなかなかありません。ですので石を研磨する以外は自分たちの手でつくれるところがhumの強味でもあります。
お客様と話し合いながら理想のジュエリーをつくっていく。『JAR』の話につながりますが、今後はそこに力を入れることで、私たちのスタイルがより確固たるものになるはず。ブランドが誕生してもうすぐ15年になりますが、まだまだこれから。お客様に支えていただきながら、職人とともに一歩ずつ進んでいきたいと思います」
《 hum(ハム)》デザイナー稲沼由香さんのインタビュー、前編はこちらを御覧ください。
PROFILE -《 hum(ハム)》
代表&職人の貞清智宏さんとデザイナーの稲沼由香さんが2004年に設立。2009年、東京・千駄ヶ谷にアトリエを構え、その後、同エリアにて直営店がオープンする。現在は東京・神宮前、伊勢丹新宿店、阪急百貨店うめだ本店にも直営店を展開。2019年春、福岡にワークショップ専門のアトリエをオープンする予定。
公式HP | http://www.hum-est.com
interviewed by Yoko Yagi
photo by Tohru Yuasa