有機的でありながらも、メタルの素材感とインパクトのあるボリューム感で、イタリアをベースに主に欧州、米国などワールドワイドに活躍する《NATSUKO TOYOFUKU(ナツコトヨフク)》。父は彫刻家、母は画家というアーティスト一家に生まれたデザイナー ナツコ・トヨフクのアーティスティックな感性と作品に迫ります。
ミラノで今ホットなガリバルディ駅の再開発地区に佇むアトリエ
「VOGUE ITALIAの編集者だったCarla Sozzani(カルラ・ソッツァーニ)がこの通りにセレクトショップをオープンさせるずっと前、60年代から父がアトリエとして使っていたところに、今自分のアトリエを設けています。今では最新のファッションが集うおしゃれな通りになりましたが、以前はとても地味な通りでした。
アトリエの向いにある10 Corso Como(*1)(ディエチ・コルソ・コモ)も元は車の修理工房だったのですが、そこがファッションデザイナーのRomeo Gigli(ロメオ・ジリ)のショールームに変わり、更にその後10 Corso Comoへと・・・今となっては有名になりましたね。」
アーティストの両親から受け継いだ経験、紡いだ発想
「彫刻家の父(*2)は1960年からヴェネツィア・ビエンナーレ(*3)に作品を出品しており、最初はそのために一年間仕事で滞在するつもりでイタリアに来たそうです。そこでペギー・グッゲンハイム(*4)の眼にとまり作品の制作を依頼されるという幸運に恵まれ、そのままミラノに住み続けることになります。私は生まれたのは東京ですが、5歳の時からここミラノで暮らしています。
母も画家ですので、幼い頃から両親の仕事柄、様々な画廊や、そこで開催されるパーティに連れて行かれていました。当時は無理やりでしたけれどね(笑)。でも、そこに来場されている方々の身に着けているジュエリーの多くが、一般的なお店に並んでいるようなものではなくアーティストによるジュエリーだったので、私にとって当時はジュエリーといえばアーティストの個性的なジュエリーを意味していました。それがずっと心の中に残っていて・・・。今思えば良い体験をしていたと思います。
そういった環境もあって昔から、60年代までイタリアで活躍していたアーティスト、ルーチョ・フォンタナ(*5)やダリに興味を持ち、その個性溢れる世界観に憧れていました。また、ジュエリーで言えばデンマークのGeorge Jensen(ジョージ・ジェンセン)のシルバーのジュエリーの形も印象的で、そういった強いエネルギーを感じるアーティストに影響を受けてきたのだと思います。」
ジュエリーは数々の職人とのコラボレーションで生み出す作品
「彫刻は見て楽しむものですが、ジュエリーは身に着けるものでもあります。ですから重かったり身体にフィットしないものではなく、身に着けやすいものであるべき。その様なリミットがある中でどう面白く表現するか、ということを常に大切に考えています。
初めはワックスで作り、自分で着けてみて、着けやすいか、面白い形かどうか、満足できなかったら作り直して・・・という作業を繰り返し、研究・リサーチしながら作り上げています。その研究も面白いんです。
作品はイタリアの職人と相談しながら作り上げています。イタリアは職人がプライドを持って仕事をしており、一緒に仕事をしている職人も「技術的にはこうした方が良い」など、よく議論を交わす頑固な職人気質な方です。でも技術はもちろん高いですから、オーソドックスな技術を活かしながら、現代的なものを作るにはどうしたら良いかと話し合いながら制作しています・・・時間はかかりますけれど。彼とはもう20年以上のお付き合いになります。また、鋳造(キャスティング)専門の職人もいるので、皆のコラボレーションということになります。」
サンフランシスコ近代美術館で発表する、新しい宝石の世界
「今後作りたいデザインは、頭の中にはいっぱいあります。今までもクオーツを使った作品がありますが、「石」を使った作品にも興味があります。例えば、この石はどこから来たのか、と思いを馳せたり、また石のセラピーというのもあるくらいですから、そんな説明を業者の方から伺ったりしています。今後は、石に関するレクチャーを行うイベントを年に2~3回くらいやりたいと考えています。既にトルマリンのイベントを開催し、今年の5月にはアクアマリンをテーマに考えています。
昨年に引き続き4月14日と15日の2日間は、サンフランシスコ近代美術館 (SFMoMA) ミュージアムストアで開催されるJewelry Trunk Showに参加します。昨年招待を受けとても良い結果を得られたので今年も楽しみにしています。」
現在開催中イベント
《NATSUKO TOYOFUKU(ナツコトヨフク)》LIMITED STORE at CULET伊勢丹新宿店
日時 :2018.3.21 wed. – 4.3 tue. 10:30-20:00
参考情報
(*1)10 Corso Como:ファッションからアート、デザイン、音楽、フードまでカバーする高感度セレクトショップの草分け的存在。ミラノの住所をそのまま店名にした本店の他、北京、上海、ソウルに続き、2018年にはニューヨークに新店舗をオープン予定。
10 Corso Como | http://www.10corsocomo.com/
(*2)彫刻家 豊福 知徳(とよふく とものり):福岡県生まれ。1955年新制作協会作家賞受賞。1959年《漂流 ’58》で高村光太郎賞受賞。1960年ヴェネチア・ビエンナーレ出品を機に渡伊、ミラノに居住。欧州において個展多数。1990年毎日芸術賞受賞。1993年紫綬褒章受章。2001年勲四等旭日小綬章受章。
(*3)ヴェネツィア・ビエンナーレ:1895年設立。二年に一度開催される、世界的に権威ある国際美術展覧会。
(*4)ペギー・グッゲンハイム:米国アートコレクター。ニューヨークのソロモン・R・グッゲンハイムの姪。1920 年代にはマン・レイやマルセル・デュシャンら前衛芸術家との交流を深め、20世紀前半の美術を蒐集。コレクションはヴェネツィアのペギー・グッゲンハイム美術館に収蔵されている。
(*5)ルーチョ・フォンタナ:イタリアの現代美術家。1949年より、キャンバスを切り裂いた「空間概念」シリーズを発表。それらの作品は現在海外オークションやアートフェアにて高値で取引されている。
PROFILE -《ナツコ・トヨフク》
東京生まれ。彫刻家であった父の意志により、5歳の時一家で渡伊、以来ミラノ在住。1990年よりジュエリーデザイナーとしてイタリアをベースに主に欧州、米国で作品を発表。2010年には自身の名を冠したブランド、《NATSUKO TOYOFUKU(ナツコトヨフク)》を立ち上げる。