ダイヤモンドの調達に人道・環境配慮を《ダイヤモンド・フォー・ピース》インタビュー – 前編

2023.10.27

ダイヤモンドは、その美しさで古くから人々の心を魅了してきました。婚約指輪として永遠の愛を祝福したり、ファッションジュエリーとして日常に寄り添う、最も有名で人気のある宝石です。一方で、ダイヤモンドの採掘行為は、児童労働や低賃金労働(※1)を中心とした採掘者の貧困、また環境破壊など、多くの問題をはらんでいると言われています。

これらのダイヤモンドに関する問題の解決を目指す団体が、「ダイヤモンド・フォー・ピース(DFP)」です。「ダイヤモンドが人道・環境配慮の上、採掘・カット・製造される社会」をビジョンに掲げ、採掘者の自立支援や消費者・業界関係者に向けた啓発運動を中心に、国内外で積極的に活動を続けています。

今回はDFPの代表理事である村上さんへお話を伺いました。この記事を通して、ダイヤモンドを取り巻く現状や、より良い未来のためのアクションをご紹介してまいります。

(※1)児童労働や低賃金労働の問題については、こちらをご覧ください。

 


■村上 千恵(むらかみ ちえ)
特定非営利活動法人 ダイヤモンド・フォー・ピース 代表理事
学習院大学経済学部経営学科卒業、ジョージワシントン大学大学院国際開発学修士課程修了。自身の婚約指輪を購入する際にダイヤモンドにまつわる諸問題を知りショックを受けたことを機に、自身の国際協力分野での経験を活かして何かできることはないかと考え、DFPを創業するに至る。

■ダイヤモンド・フォー・ピース(Diamonds For Peace)
2014年5月創業(任意団体として活動開始)、2015年3月20日NPO法人設立。役員:5人、有給職員:日本1人/リベリア4人、無給ボランティア:約60人のメンバーで活動し、2023年10月現在、法人と個人をあわせて約60の会員を擁する。ビジョンは「ダイヤモンドが人道・環境配慮の上、採掘・カット・製造される社会」。

 


婚約指輪をきっかけに知った
ダイヤモンドの真実

村上さんがダイヤモンド・フォー・ピースを立ち上げたのは2014年。ダイヤモンドについて考えだしたのは、2008年にご結婚された頃だったそうです。創業の動機にもなったダイヤモンドの問題とは、一体どんなものだったのでしょう。

「私は元々好奇心旺盛で様々なことに興味があり、それまで知らなかったことを知りたい性格です。結婚し婚約指輪をもらうことになった時(指輪は自分で色々調べて自分でオーダーしました!)、それまでよく知らなかったダイヤモンドのことを知りたいと思いました。ダイヤモンドについて検索したところ、児童労働や紛争ダイヤモンドの情報をたくさん発見し、驚くと同時にショックを受けました。同時に、これらの情報がすべて外国語(英語)での表記であり、日本語でこれらの問題を掲載しているウェブサイトが存在していなかったことにも衝撃を受けました。」

「まだ知らない方もいらっしゃるかもしれませんが、現在出回っているダイヤモンドは次のような問題を抱えている可能性があるのです。」

問題1:紛争を激化させる(※2)
ダイヤモンドに関する問題としてよく知られているのが、「紛争ダイヤモンド」です。紛争の資金源となるダイヤモンドのことで、コンフリクト・ダイヤモンド、ブラッド・ダイヤモンドとも言われます。ダイヤモンドは、価値の高い資源です。ダイヤモンドを売った資金で武器を購入した結果、内戦が激化し、多数の人々が亡くなっています。レオナルド・ディカプリオ主演の映画「ブラッド・ダイヤモンド」では、シエラレオネの内戦で、反政府軍が地元民を強制労働させる様子、子ども達を麻薬漬けにし少年兵に仕立て、故郷や家族を襲わせる様子などが生々しく描写されています。

(※2)紛争とダイヤモンドの問題について詳しくは、こちらをご覧ください。

問題2:人権侵害(※3)
ダイヤモンド採掘に携わる零細採掘労働者の多くが、低賃金労働による貧困、児童労働、借金を背負いそれを返済するための債務労働、強制労働、採掘現場での虐待行為など様々な人権侵害に苦しんでいます。もし、自分が手にしたダイヤモンドが、学校に行けず強制的に働かされている幼い子どもによって採掘されていたら。労働の対価に見合わない低い報酬しか受け取れない人たちによって採掘されていたら。あなたはどう思うでしょうか。

(※3)人権侵害の問題について詳しくは、こちらをご覧ください。

問題3:環境破壊(※4)
原始的な零細採掘現場では、環境への十分な配慮がなされていないことが多くあります。例えば、現場の管理が困難であったり、土地の所有権が不明確な場合、その土地を持続的に活用していこうというモチベーションが働きません。目先の利益に目がくらみ無理な採掘が行なわれ、採掘が終わったあと元の状態に戻されないケースも少なくありません。そのような土地は、採掘後農地利用もできず放置されているのです。

(※4)環境破壊の問題について詳しくは、こちらをご覧ください。

ウィズア村にあるダイヤモンド鉱山の採掘現場

婚約指輪という、ふたりの門出を祝福する記念すべきジュエリー。そこに使われているダイヤモンドにはロマンチックで美しいストーリーを期待してしまいますが、実際にはそれだけでなく多くの問題点も隠されているようです。村上さんは、この問題を自分だけが知って終わらせるのではなく、少しでも前向きなアクションができないかと考えます。

「『国際協力をしてきた自分だからこそできることがあるのではないか』と、ケニアに単身赴任していた2年間考え続けていました。その結果、フェアトレードの原則をダイヤモンドに応用できるのではと思い、DFP創業にむけて動き出しました。まずは、映画「ブラッド・ダイヤモンド」の舞台となったシエラレオネのコノ地域を2012年に訪問しました。が、シエラレオネはダイヤモンド産出量がかなり多く(=利権や賄賂で利益を得ている人も多い)、新しいNGOが活動するには障壁が高すぎると判断しました。」

「その後リベリアで国連ボランティア勤務経験のある友人(後にDFP創業メンバーの一人になる)が、信頼できるリベリア人の元同僚を紹介してくれたので、2014年5月、その人を頼りにリベリアを訪問しました。採掘地域視察のアレンジを手伝ってもらえたおかげで、普通の人がなかなか行けないダイヤモンド採掘地域を訪問し、村の人々に聞き取りをすることができました。また、偶然にも当時の副大臣に面会でき、彼がリベリアの採掘者たちを組合組織化したいというビジョンを持ち鉱山省の政策にしようとしていることがわかりました。フェアトレードの産品は労働者が組合組織化されていることが前提条件で、国と私たちの方向性が一致していると思えたので、リベリア(※5)で活動することを決めました。現地で行う活動は、その国の政策と一致していることが重要なんです。政府に自分たちの活動を支持する政策がないと、活動を妨害される可能性が高くなるからです。」

(※5)Kimberley Processが公表しているデータによると、2022年のダイヤモンド産出量はシエラレオネが約68万カラットで世界第10位、リベリアは約5万カラットで第17位に位置付けられています。第1位のロシアは約4千万カラットで全体の約35%を占めます。

ウィズア村にあるダイヤモンド鉱山

 

採掘者たちの自立、
消費者や業界関係者の意識改革を目指して

ダイヤモンドに隠された残酷な現実を変えていこうと、ダイヤモンド・フォー・ピースを立ち上げた村上さん。現在、ダイヤモンド・フォー・ピースではどのような活動が行われているのでしょうか。

「私たちは、主に日本とリベリアの2拠点を中心に活動しています。日本では、全活動の企画立案・監督および啓発活動を実施しています。リベリアでは自立支援活動を行っていますが、企画自体は日本が主になって行い、リベリア拠点に実施を依頼し、そのモニタリングや監督を日本側が行うという形です。活動資金は、現在60ほどご参加いただいている法人/個人会員の皆様からの会費、寄付金、助成金等が主になります。」

組合のリーダー達と話し合いをする様子

活動内容1:採掘者自立支援
自立支援についてお伝えする前に、まずは採掘者たちの貧困について知っていただきたいと思います。多くの零細採掘者たちは極度の貧困に陥っており、採掘活動のための資金がありません。そのため、サポーターと呼ばれる仲買人たちから資金提供を受け採掘にあたるのですが、採掘したダイヤモンドをサポーターからの低い言い値で売らざるを得ません。採掘者たちはそもそもダイヤモンドに関する知識が乏しく、適正な価値も交渉する術も知らないのです。

このような現状を鑑みて、現在はリベリアのウィズアという村で、サポーターに依存せず自分たちの資金で採掘活動ができるようになることを目標に支援活動を行っています。具体的には、収入源を増やすために養蜂活動を支援したり、ダイヤモンドの正しい知識を教える基礎研修や、責任あるダイヤモンド採掘の研修などを実施しています。これらの活動を、いずれは他の村や国にも広げていきたいと思っています。

ダイヤモンド原石評価基礎研修で、ルーペの使用方法を習う参加者たちと講師 ©︎Tomo

活動内容2:啓発活動
ダイヤモンド業界を変えるためには、消費者や業界の認識が変わることも重要だと考えています。消費者や業界関係者に向けたイベントやウェビナーの開催を通して、ダイヤモンド業界の問題やどのように解決に貢献できるのかをお伝えしています。また、数年に一度意識調査を行い、啓発活動に活かしています。過去の調査結果(ダイヤモンド白書)は、当会ウェブサイトのライブラリページからダウンロードいただけます。

活動内容3:ダイヤモンドカット・研磨工場支援/ジュエラーへの責任ある原料調達支援
これらはまだ実施していませんが、今後やっていきたい活動です。ジュエラーへの責任ある原料調達支援に関しては、リベリアで自立を支援している組合員たちが責任を持って採掘したダイヤモンドを国際市場に流通できるようになった際に、フェアマインドゴールドのようなスキームを展開する予定です。

貧困から生まれる負のループを断ち切ること、世間の意識を変えることから始めようと、ダイヤモンド・フォー・ピースは活動を続けています。「ダイヤモンドが人道・環境配慮の上、採掘・カット・製造される社会」というビジョンに近付いている実感はあるのでしょうか。

「支援先の村では、サポーター(資金提供者)への依存を断ち切りつつある組合員が出てきました。数名の組合員たちが養蜂の巣箱を一人で何箱も作って森に設置したり、ダイヤモンド採掘研修で習ったことを一緒に働く労働者たちと共に実践したりと、DFPの自立支援が着実に成果に繋がりつつあります。彼らが採掘したダイヤモンドを国際正規市場に流通させるためには、資金提供者への依存から脱却することが必須なのです。」

ウィズア村の組合員のダイヤモンド原石

「活動開始当初は、「そんな問題は存在しない!」と業界人らしき人に怒られたこともあります。しかし今では、多くの人がダイヤモンドには何らかの問題があると気づいているように思います。問題を解決するにはまずどのような問題が存在するのかを知ることが必要ですので、一歩前進かと思います。また、ダイヤモンドに限らず、宝飾品の原材料としてトレーサブルなものを手に入れたいという希望もよく聞くようになりました。」

「啓発活動を続けるなかで、フェアトレード発祥国であるイギリスはやはり先進的だなと感じることがあります。例えば、当会のビジョン・活動内容に共感して入会いただいた法人会員の約4割は、英国企業または英国人が経営する企業です。イギリスでは宝飾業界関係者・一般消費者のどちらも、フェアトレードやそれに準ずる事業活動への意識が高いと実感しています。他の欧米諸国および日本でも、ダイヤモンドや責任ある調達・製造方法を経てつくられた宝飾品への意識は徐々に向上してきていると感じます。」

「こうして着実に前進してはいるものの、資金調達は大きな課題です。寄付や助成金が主な収入源ですが、節約に節約を重ねても今年は特に円安の影響で費用がかさんでしまいます。」

ダイヤモンド原石評価基礎研修で、演習問題で正解し喜ぶ参加者たちと講師 ©︎Tomo

 


ダイヤモンド・フォー・ピースの採掘者自立支援や啓発活動により、ダイヤモンドを取り巻く状況が少しずつ変わり始めているようです。

ダイヤモンドの調達に人道・環境配慮を《ダイヤモンド・フォー・ピース》インタビュー – 後編」では、私たち消費者が実践できるアクションについて伺い、より良い未来のために何が必要だろう?ということを一緒に考えていきます。


ダイヤモンドの調達に人道・環境配慮を《ダイヤモンド・フォー・ピース》インタビュー – 後編




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