時を経て育まれる素材が導く感性《Curva y Ruri JEWELRY》インタビュー

2021.11.16
アンティークレースとtourner(トゥルネ)リング

アンティークレースを象り金属へと昇華する唯一無二の造形。熟練された職人の高い技術により、時を経て新たな素材の魅力を纏うジュエリーが注目の《Curva y Ruri JEWELRY(クルバ イ ルリ ジュエリー)》デザイナー奥村麻衣子さんへのインタビュー。

ジュエリーを愛してやまない彼女の、これまでの歩みから、デザインに対する深いこだわり、そしてお客さまへ届けたい想いについて尋ねてみました。


 

JEWELRY JOURNAL(以下、JJ):ジュエリー業界に入って20年、独立されて15年という長いキャリアをお持ちの奥村さんですが、まず初めに、この世界に足を踏み入れたきっかけについて伺わせてください。

奥村麻衣子(以下、奥村):大学は美大に進学し空間演出を学びました。ですが学ぶにつれ、大きな空間を想像することよりも掌に収まるくらいのものをつくる方が自分には向いているのでは、と思うようになりました。

私の物事の初めは、いつもぼんやりとした好奇心や興味から始まりますが、卒業後進路を模索する中で、ジュエリーの企業に入社を決めたことがこの世界に進むきっかけになりました。小規模なブランドでしたので、全員で販売をしながら、デザインや製作と兼業していた方もおり、いずれデザインにも携われるという会社の方針を魅力に感じました。

勤務先は都内の百貨店でしたので、日々沢山の旬な商品を目にすることになりました。そうして時間を過ごす中で、当時世に出回っていた画一的な貴金属商品に次第に窮屈さを感じ、素材の豊富さやデザインの幅が広いアクセサリーに興味がシフトしていきました。その後、アクセサリー製造メーカーでの企画デザイン職や、アパレルや雑貨店をクライアントとするOEM事業を担うアクセサリー会社でのデザイナーを経験し、2006年に独立しました。

 

JJ:独立されるに際し、何か背中を推す出来事や想いがあったのでしょうか?

奥村:これといった大きな出来事というより、やっぱり寝ても覚めてもアクセサリーを考えてしまうということでしょうか。自分なりに続けていく手段を考え、次は右か左か、その時々の定義や好奇心が道筋をつくってきたように思います。

アクセサリーに興味がシフトした当時は、趣味のビーズアクセサリーにも夢中になっており、仕事をする傍ら、友人の勤務先のインテリアショップで取り扱っていただいたりもしていました。それから企業での経験を重ね、独立を考えるようになった時には「一度自分のペースでつくりたいものをつくってみようかな」と一息つく思いで行動に移し、程なくして合同展示会への出展が決定、勤めていた会社も退職しました。

これまで働いてきた中で、トレンドや価格帯重視という制限の中商品の企画をしたり、数々のアパレル企業との連携でお仕事を進めたり、そういった経験が自分の基礎をつくり、オリジナルブランドという更なる経験に繋がったのだと思っています。

 

JJ:立ち上げ当時は、どんなブランドでしたか?

奥村:当初はアクセサリーブランド《Curva(クルバ)》としてスタートしていました。元々仕事と割り切らない限りトレンドがあまり得意ではないのですが、当時はシーズン毎にまとまった新作をつくっていましたし、季節感や流行りの素材などを取り入れる必要性を感じていました。

初期のジュエリーコレクション

 

JJ:そんな中、2019年にはリブランドをされていますが、どのような意向だったのでしょうか?

奥村:まずは、時代の変化を感じたことです。つくりたいものと、時代が合わなくなって来たのを痛感しながら、どんなデザインをどんな価格にしたら売れるのか悩み始め、目的すら見えなくなっていきました。

それと同時に、肌に触れる金属の素材を気にする方が増え、一部展開していたジュエリーラインの需要の高まりを感じていました。私がアクセサリーに興味をシフトした、ブランド立ち上げ当初の20年前と違って、ジュエリーの価値観も大きく変わり、発想も自由になりました。今となっては貴金属の方がトレンドに縛られず、つくりたいモノの世界観をしっかりと打ち出せるのではないかと考え始めたのです。

そしてもう一つ、人との出会いも大きなきっかけになりました。私は作ることばかりに夢中になるあまり、商品の魅力を自分で伝えることがとても苦手です。そんな中、私の思いやイメージにとことん付き合ってくれるMDの大内や、職人さん方との新しい出会いによって、ブランドをつくる上での揺るがない信念を持てるようになりました。リブランドが私個人にとっても大きな人生の転機になったと感謝しています。

 

JJ:リブランド以降の《Curva y Ruri JEWELRY(クルバ イ ルリ ジュエリー)》といえば、アンティークレースのイメージがとても強いのですが、デザインインスピレーションの源は何ですか?アンティークなものに惹かれる、特別な理由や思い出などはあるのでしょうか?

奥村:昔から大叔母と好みが合い、学生時代は大叔母のクローゼットを開けては古着などを譲り受けてきました。曾祖母の代から使っていた古い棚など今も愛用していますし、アンティークや古いものが好き、という感覚はずっと昔から私の根源にあり、育つ環境で自然と根付いてきたものだと思います。

アンティークレースは、その中で私が愛着を感じて集めた素材の一つでした。前身のブランド《Curva(クルバ)》の時に、お世話になっていた職人さんにつくっていただいたプレート状のネックレスがあります。長い年月を経て受け継がれた素材が金属へと形を変えることで生まれる素材の持つ質感やストーリーの面白さに、当時から魅力を感じていました。

アンティークレースとtourner(トゥルネ)リング

アンティークレースという素材は、古いものへの愛着、素材や職人の技術への興味、大切にしている自分自身の感性を総称して置き換えた私自身を表現しているかのようです。人がモノと過ごしてきた時間でしか生み出せない、アンティークが纏う経年の風合いと、年月をかけ磨き、特別な時間を纏う職人技術とが触れることで生まれるアンティークレース。次々と、インスピレーションが広がっていきました。

ただ、アンティークレースを金属に変えるというアイディアは、量産体制ではない環境を整えることや、価格帯の問題で難航し、今のような形で世に出すことになったのは、リブランドのきっかけになった職人さんとの出会いによるものでした。

 

JJ:《Curva y Ruri JEWELRY(クルバ イ ルリ ジュエリー)》とそのジュエリーは、職人さんとその技術に支えられているということですね。

奥村:Curva y Ruri JEWELRYは職人の技術あってのブランドです。実はリブランド前のアクセサリーブランドの時も「線加工」という昔ながらの職人技術に拘った技法を用いており、私の根底にある物づくりへのビジョンは昔も今も変わらないのです。

自分のブランドでありながら、常にスペシャリストの技術やこの職人にお願いしたい、という意識で取り組むので、作品に対して客観的な視点を持つことができ、仕上がった時に毎回ワクワクとした高揚感を味わっています。そうしたことがいつも新鮮な気持ちで作品づくりを続けるモチベーションなんだと思います。

「工芸の魅力を、作品を通して表現したい」と常々考え、デザインインスピレーションを広げていますので、職人さんの存在は一際大切です。

 

JJ:これまで制作したジュエリーで、思い入れのあるジュエリーを教えてください。

奥村:tourner(トゥルネ)というコレクションになります(上部レース写真と共に撮影)。このリリースをきっかけに繊細なアンティークレースの柄を、より表現できるようになりました。

tournerが生まれたきっかけは、製作が立て込んでいる職人さんに代わって自分でレースの原型づくりに挑戦したことでした。私が実験的につくった原型を試しに鋳造に出し、その面の広いレースをそのままリングに出来ないかと考え生まれたのが、tournerの地金コレクションです。

このリングを展示することでブランドのコンセプトを一目で伝えることが出来るようになりました。そして、ストーンジュエリー、ブライダルへとアイデアは広がりました。

 

JJ:ストーンジュエリーというのは、どんなジュエリーでしょうか?

tourner ストーンジュエリー

奥村:ストーンジュエリーは、原石探しから研磨にも拘ったストーンとそれを支えるレースの地金との融合を楽しめるジュエリーです。石の大きさから内包されるインクルージョンの魅力まで、存分に味わっていただくことが出来ます。

tournerのストーンジュエリーは、石とレースとアームを選べるカスタムオーダーとなっています。オーダーいただくと、レースからジュエリーになる過程をお客さまに実際に体感していただけることが、「工芸の魅力を伝える」ことの手段であり、このジュエリーの更なる魅力ではないかと思っています。

 

JJ:ジュエリーになる過程を一緒に歩めるコレクション。より一層愛着のわく一点になりそうですね。オーダーなどは、本日お伺いしているサロンなどでじっくりと楽しめそうですが、少しこのサロンについてお伺いさせてください。

奥村:このサロンを自由が丘にオープンしたのは2008年になります。所謂、お店という風貌ではなく、ここがお客さまと直接交流を深められるような特別な場となる、アトリエショップをつくりたいと思っていました。

味わいのある古い建物とか、隠れ家的な場所がイメージでしたので、住宅街なのに扉を開けたら異空間が広がるような、そんな場所を探しました。トレンドでもなく、好きなものに愛着をよせるようなそんな自由が丘の街の魅力に惹かれ、そこに佇む場所をサロンにしています。

このサロンでは、デザイナーとしての経験を活かして、ジュエリーをご提案するだけではなく、プラスαのエンターテイメントをお客さまにお届けしたいと思っています。今はコロナで難しいこともありますが、クリスマスイベントやジュエリーレッスンなどの開催もしています。

 

JJ:最後になりますが、これからの《Curva y Ruri JEWELRY(クルバ イ ルリ ジュエリー)》の展望をお教えください。

奥村:一般的にジュエリーを選ぶ時は、宝石ですから石の価値や輝きというのは、大事なポイントだと思います。《Curva y Ruri JEWELRY(クルバ イ ルリ ジュエリー)》も勿論、そういった石そのものの価値を重視した作品も多くありますが、私がルースを原石から研磨してつくるコレクションは、それとは逆を行く発想です。だからこそ、その世界観を共有してくださるお客さまにしっかりと届けたい、シンプルですがそんな強い思いを持っています。

モノの価値、人の価値観も多種多様になりつつある今、これまでの20年にジュエリーのデザインが幅広くなった様に、これからの10年で石を選ぶ価値感も大きく変わるのではないでしょうか。そんな時、自分はどんなものを身の回りに置くと心地がよいのか、自分らしさを表現できるのか、そういう視点で《Curva y Ruri JEWELRY(クルバ イ ルリ ジュエリー)》を選んでいただけたら本望です。


 

心地のよいジュエリーを選ぶ、という素敵な選択肢を提案してくれた《Curva y Ruri JEWELRY(クルバ イ ルリ ジュエリー)》の奥村さん。ジュエリーに込められた、デザイナーの深い想いや、歩んだ軌跡に思いを馳せながら、常に自分に寄り添ってくれる、心地よいジュエリーに出会いたいものですね。

Curva y Ruri JEWELRY(クルバ イ ルリ ジュエリー)》はこの12月以下のイベントに出展予定。この秋発表された新作「matiz(マティス)」を携えたデザイナー奥村麻衣子さんに直接会えるチャンスですので、ぜひ足を運んでみてください。


 
New Jewelry TOKYO/ SPIRAL 
日時:2021.12.3 fri. – 5 sun.
場所:青山・スパイラル
住所:〒107-0062 東京都港区南青山5-6-23
URL:https://newjewelry.jp/nj2021/

Jewelry Week at Ginza Mitsukoshi
日時:2021.12.22 wed. – 28 tue.
場所:銀座三越 1Fプロモーション
住所〒104-8212 東京都中央区銀座4丁目6-16
URL:https://jewelryweek.jp/event-venue/4455/


 
ヴィンテージのシャンデリアガラスからイメージした色彩豊かな《Curva y Ruri JEWELRY(クルバ イ ルリ ジュエリー)》の新作「matiz」についてはこちらをご覧ください。

《Curva y Ruri JEWELRY》シャンデリアガラスからイメージした色彩豊かな新作ネックレス発表



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