国内外で様々な経験を積んだ後、ジュエリーの世界に飛び込んだデザイナーの井上寛崇さん。2010年にニューヨークで自身の名である《Hirotaka(ヒロタカ)》でブランドデビューをすると、「今までに見たことがないジュエリー」と評され、全米へと人気が広がっていきました。
後編はそのデザインと、2016年に東京・表参道ヒルズにオープンした初の直営店について迫ってみます。
引き算から生まれるデザイン
「デザインするうえで特別な女性像が浮かぶこともなく、ハートや星、LOVEといったジュエリーでおなじみのモチーフを使うこともありません。やはり子供の頃の経験が大きかったかもしれません。宝石好きが転じて鉱物に興味を持ち始め、次第に自然の生態に注目するようになっていき、動物学者になりたかった時期もありました。全体よりもディテールが気になります。爪、目元、脚とか。昆虫のお腹や植物の蔓とか。風景も一部分を切り取ったりして。
そういった視点でフォーカスしたディテールを限界ギリギリまで抽象度を上げて完成したものが、Hirotakaのジュエリーなんです。抽象度を上げる、つまり引き算することがデザインする上で何よりも大事。だから完成したジュエリーはすごくミニマルなスタイルですので何でも捉えられるんです。
フラミンゴからインスパアされたピアスは言われればそうですが、何かの花の雄しべにも見えますよね。蜘蛛の巣をイメージしたシリーズも光線のようですし、マンハッタンの夜景を表現したシリーズもキラキラしたテトリスみたいですよね。想像力がふくらむジュエリー。でも引き算して残す部分にはどこかエッジを効かせたくて。すごく小さくしたり長くしたり。バイヤーによく指摘されたTooがそれにあたるのかもしれません」
ミニマルな中にある日本人らしさ
「海外のバイヤーからは日本人だから日本らしいジュエリーをつくらないの?と聞かれますが、自分の中では引き算のデザインこそ日本らしいと思っているのですが……。古くから伝わる日本の芸能や意匠はどれも引き算された美学が宿っているような。ミニマルなものは普遍的なものでもあります。家紋や着物の柄などがそうですよね。ただ日本人だから日本を意識するとか、私のデザインはこれですといった主張はしたくありません。
スタイルを提案するブランドですから、身につける人の魅力をぐっと引き出せるような、何十年経っても飽きずにその人のワードローブにあるような、そんなパーソナルでいてエターナルな存在でありたい。そういう思いと自然のディテールが自分の頭の中には常にありますね。
クオリティも常に考えています。ファッションジュエリーとはいえ、クオリティは高いところをキープしなければいけません。型数は300以上ありますが全て職人による手仕事です。中には一人にしかできなくて1日数個しかつくれないものも。職人を見ていてもやはり日本人は器用で丁寧で真面目ですね。彼らがいないとHirotakaの高いクオリティは維持できません」
直営店がオープンして感じること
「2016年3月18日、偶然にも自分の誕生日にブランド初の直営店が表参道ヒルズにオープンしました。ありがたいことに一度手にしたお客様はリピーターになってくれることが多いです。重ね付けするとよりパーソナルなスタイルが楽しめるからかもしれません。お客様それぞれが全く違うHirotakaの捉え方をするのですごく勉強になります。
こうして直営店ができたことによって新たな気持ちが芽生えました。偏見のない優しい気持ちがデザインでも何においても大事なんだと。すると国際交流や自然環境など世界共通の問題が自ずとつながってくるのですが、自分たちのジュエリーを通してそういうメッセージを少しでも発信できるように努めているところです。
それといつかミュージアムのような空間の店を開きたいですね。夢に出てきたありそうでない芸術品みたいなジュエリーを並べたりして。場所はアクセスしやすいところ。東京? ニューヨーク? でもまずは邁進あるのみ。思いを込めてジュエリーをつくり続けていきます」
《 Hirotaka(ヒロタカ)》デザイナー井上寛崇さんのインタビュー、前編はこちらを御覧ください。
《Hirotaka(ヒロタカ)》の人気ジュエリーは一部、CULET ONLINE STORE でご購入いただけますので、ぜひご覧ください。
PROFILE -《 Hirotaka(ヒロタカ)》
2010年、デザイナーの井上寛崇さんによってニューヨークのSOHOでスタートする。現地の雑誌編集者やスタリスト、モデルの間で人気が広まり、今では老舗百貨店などを中心に全米で展開中。日本も2016年3月に東京・表参道ヒルズにオープンした初の直営店をはじめ全国のセレクトショップで取り扱っている。
公式HP | http://hiro-taka.com
interviewed by Yoko Yagi
photo by Tohru Yuasa